さて、決勝当日。
毎度のことだが、まずはオフィシャル(的)ミーティング。
コース長の谷津さん、パドック長の菊地さん、そして全体をコントロールしてくれるDAIちゃん。
あ、それと各ポストのマーシャル達。
今回のレースについて、あらためて説明をしていく。
まずは、安全第一。それが基本です。
これが守られない場合は、レギュレーションがどうのとか言っている場合ではない。
レースの結果と安全とのどちらを優先にした行動なのか?これをみてもらう。
週間天気予報は、この日を雨にしたり晴れにしたり悩ませていた。
当日になってのピンポイント予報は、もっと悩ましい。
18:00から雨の予報。
もし、これが本当なら、レース終盤で大変な事になりそうだ。
放送関係の設営は、先週のレース実況のままだったので問題はなかった。
が、やっぱり忙しいのは事実で、細かい確認やら自分のチームのことなどなかなか目がいかない。
その点、チームのみんなは良くやってくれている。
ドライバー[1]は、毎年恒例の尊師杉山[2]とカリスマ溶接師春名、それとKSDP[3]塗り職人岩崎が
つとめる。
ウチのチーム監督は、人選にはやたらと厳しく、ただ速いだけのドライバー[1]では納得しない。
チームとはいえ、ドライバー[1]は走りだけではダメなのだ。
マシン[4]の状況はもちろん、他のドライバー[1]のスティントではピット要員もする。
そのためには、必要な準備を的確に理解して、確実に行動してもらう必要があるのだ。
遠慮がちでも困るし、かといって図々しいのも困る。
コースインの時にピット出口で車検シールを貼るのも私の仕事。
今年は、パドックでの事前チェックができなかったのだ。
タイムアタックが始まるが、昨日のスピードがない。
タワーで喋っていながら心配になってくる。
実際に乗ってみると、なんかフレームの反応が今ひとつ。
そして、回転数もやはり予定よりほんの少し低いのだ。
4秒台のタイムしか出ず、4番手の位置にいる。
監督には「なんとか3秒に入れて欲しい」と言われる。
ここでウェイトセッティングを変えるかどうか、そしてタイアセッティングを変えるかどうか悩む。
尊師杉山[2]は「悩んだときには、攻める方向で行く」と言われるが、
セッション終了間際に、その時にドライ[5]ブしていた岩崎が3秒台に入れる。
なおさら悩んだのだが、そのままで行くことにした。
これより回転数を上げるとなると、去年と同じウェイトセットになってしまうのだ。
決勝のスタートは、いつものように尊師杉山[2]に任せる。
無駄なバトルに巻き込まれることなく、SUGO[6]を安定して周回して欲しいからだ。
2番目には岩崎を出すことにしている。
第2スティントは給油があるのだが、それまで私はタワーにいるからである。
私のスティントには、変なピットワークを入れたくないのだ。
また、3スティント目になると、マシン[4]の変調も出てきやすい。
これを感じるのは、やはりマシン[4]オーナーでしか難しいのだ。
レースは定刻スタート。が、ここに例のGXがいない。
タイムアタックでマシン[4]不調となり、ピットスタートとなってしまったのである。
スタート時点を切る各マシン[4]。
尊師杉山[2]は3位をキープするも、1台にかわされ4位になってからは
前方のハイランド組3台から徐々に離れていく。
そして、5番手はこちらも離れていく。尊師のタイムはなかなか上がらない。
リアタイアだけ旧型を履いている影響はどうなのか?
尊師は手振りでリアタイアの交換を指示してくる。
次のピットインでは、9リットルの給油と、タイア交換が必要となった。
タイア交換は、思ったより早く済み、給油の時間の方がかかってしまう。
岩崎がコースインして、しばらくはタイムが上がる。
しかしスティント終盤、タイムにバラツキが出始め岩崎はタンクのあたりを気にしている。
加速不良のようなのだ。これは困った。
この症状は、FK9[7]では特有の症状で、ピストンの熱によって焼き付き寸前の状態なのだ。
が、現在のドライバー[1]は岩崎。
彼は、このFK9[7]の悪魔の喘ぎを知らない。燃料が上がってきていないと思っているのだろう。
このまま走らせても症状は改善しないし、悪い結果もあり得る。
走行時間は若干短いが、ピットインさせドライバー[1]交代をすることにする。
第3スティント担当の私は、急いで準備をはじめ、それ以外の可能性も考えてみる。
ピットインしてきた岩崎は「加速ポイントで燃料が来ないような失速がある」という。
ビンゴだった。
キャブのLoはいじらずに、そのままコースインした。
既に、回転はかなり落ちてきている。
エンジンにダメージを負っているかも知れないが、それは確認のしようがない。
走りながら、吸気口の向きを変え、Hiニードルを合わせていく。
リッチにするポイント、リーンにするポイント。
どうやら、このままで行けそうだ。。。と思ったときに、マシン[4]の挙動が急におかしくなる。
実は、乗り込んでからすぐになんとなくおかしな感じをもっていた。
どこのコーナーでも、いつも挙動が違っている。
しかし、キャブセットのことを考えていたので、あまり大して気にしていなかったのである。
セットを終了して、さぁ、ここからと9コーナーで少し内側を走ったときに
「ガリガリ」とシートが鳴ると同時に、お尻に嫌な感触。
なんと、シートのトラブルが起こったようなのである。
ところがこれが乗っている状態では、確かめようがない。
底面が割れているかどうかなど手をあてるわけにもいかない。
リアステーがあることは確認できたが、効いているかどうかは判らない。
とりあえず、ピットに手振りで伝えようとするが、彼らにしても
まさかシートのトラブルだとは思わないだろうから、伝わらない。
仮に伝わったとしても、対策は取れないかも知れない。
タンク寄りに座り、体を固定できない状態で、数周走行を続ける。
ステアリングにしがみついている状態である。
が、我慢できずにピットイン。
急いで、大声で「シートのトラブルだ」といいマシン[4]から離れるが
上から見た状態では何も異常がない。
一瞬、自分のドライバー[1]としての感覚を疑い頭の中が真っ白になる。
そんなはずはない・・・と思いながら、シートに手をやると前のボルトが動く。
なんてことだ。。。シートのボルトがフレーム側の穴に入っていなかったのである。
裏からのぞき込み、修復を始めるが、路面に当たったボルトはなかなかナットに咬まない。
ゴムブッシュが一部欠けている。
そうか、これがフレーム側の金属部分とシート自体をタダ単に「挟んでいた」だけだったのだ。
去年までの車検では、かならず台車に乗せた状態で下からも覗いていた。
しかし、今回はピットロードで上からだけのチェックだった。
予選後に、ウェイト交換をすれば当然シートも外すから気が付いた。
そんなことを悔しく思いながら、なんとかナットを咬ませてコースに戻る。
マシン[4]の挙動は安定し、タイムが戻る。
走りながら、情けなくなってきた。
こんな初歩のミスと、データの読み違い。
ピットサインで戻ったが、落ち込んだ気持ちは体を重くしていた。
実際のところ、そのあとのスティントでは、もうどうにもならない状態になっていた。
トップ3台とのラップ差は、1周あたり2秒以上。
4位の単独走行中。5位はこちらもラップタイムで開きがある。
とにかく、何かが起きない限り、この順位の変動はあり得ないのだ。
チーム監督は、それでも私に何かを期待している。
どうにもならない、、とは言えないのだが。
エンジンにもダメージがあるだろう。
最後のスティントにどんな気持ちで走り出せばいいのだろうか?
6時間40分の段階で、前走者の岩崎がマシン[4]に乗り込んだ。
つまり、私の仕事はチェッカーへの少ない走行時間だけである。
マシン[4]の状態は、ドライ[5]状態でトップ3台から5秒落ちまで来ていた。
しかし、真っ暗になったコース上に、異変が出てきた。
なんと予報通りの雨が降ってきたのである。
この雨が、どれだけ降るのか?
残りの時間はまだ1時間以上有る。1スティントは55分。
岩崎のタイムはどうか?残りの数分をどうするか?
いきなりの展開だが、ピットの連中はベテラン。
すかさずインパクトドライバー[1]と、タイアエアのチェックを始める。
私は、ノイズボックスの雨カバーと、ガムテープ、オイルスプレー。
全て防水のためだ。
残り55分まで引っ張って、岩崎をピットインさせる。雨は本降りのようだ。
左リアタイアを担当し、雨カバー・スイッチ防水をすませる。
が、フロントタイアで手間取っている。2リッター給油してもフロントタイア待ち。
しかし、全体でのピットストップではかなり早くコースインできた。
自分のスティントで雨が降ってくるなんて、これは最後のチャンスだ。
が、同時にプレッシャーもかかっている。
尊師杉山[2]に「雨ライン[8]覚えている?」聞かれる。
大丈夫だと答えたが、本心ではない。
古いタイアだったことを忘れて10コーナーに進入。スピンをする。
すぐに戻るが、2〜3周はタイアのグリップがない。
マシン[4]の感触を確かめながら、4周目からアタックし始める。
ふと気が付くと、なんととんでもないタイムで走っていたのだ。
13〜15秒台?トップが22秒台なのにである。
こちらは、立ち上がりもパワー感もなく、トップスピードもないマシン[4]。
インフィールドだけで稼ぎ出しているタイムなのだ。
コース上で出会うマシン[4]が、かなりのスピードダウンをしている。
その中で、1台の強敵に出会った。それまで3位を走行していた7号車である。
このマシン[4]は、手こずる。
ストレートも立ち上がりもまだまだ力強いのだ。
本当は邪魔をしたくないし、こちらのタイムも上がらなくなるので
離れて走行したいのだが追いついてしまう。
しかも、インフィールドで追いつくので始末が悪い。
特に、最終手前の14コーナーでかわすのだが、立ち上がりイン側で一気に抜かれる。
それを何度も繰り返したのだが、相手はピットインのタイミングだ。
トップのマシン[4]にも、コース上で何度か出会う。
スピード差がありすぎる。
ドライ[5]で5秒遅れが、雨で7秒以上速く走れている。
この時ばかりは、誰ともなく感謝の気持ちでいっぱいになった。
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