正直言って、もう気力が無くなってきていた。
私にとってFK-9とは何なのだろうか?8耐とは?
公言はしていないが、たまにぼやくことがある。
「Q!!Maru CUP は、救済事業なんです。」
FK-9オーナーとなってしまったが故の受難と苦悩。
メーカーを恨んだこともあった。自分自身に腹立たしさもあった。
これが一番モータースポーツの入り口に近い人間に対しての答えなのか?
そして、それを跳ね返すつもりで企画をしてきた。
しかし、「もうそろそろ役目は終わったかな?」とも思い始めていた。
前日土曜。
午後の走行に間に合うようにマシンを組み立てる。
セカンダリシーブは思いの外スムーズなのでこのままとする。
コンプレッションスプリングはD社のほんの少し強いタイプ。
ウェイトセッティングは前回と同じ5.5g×6
それとカメレオンファクトリーのセット。
とにかく、終盤の回転落ちが嫌だったのである。
ここで少し技術的な解説をしてみる。
スクーター系のエンジンの場合、排気量などのパワーが変わらない場合は
駆動系のセッティングでタイムが大きく変わってしまう。
これはご存じのようにウェイトローラーのセッティングが重要。
ウェイトローラーは変速タイミングを司る重要なパーツだが
エンジン回転の遠心力によって変速しようとする力を生み出している。
この力は主にシフトアップのタイミングであり
ウェイトローラーが重ければ低回転で変速してしまう。
この力はシフトダウンさせようとする力とのバランスがある。
ブレーキング後の加速等は、シフトダウンさせようとする力が大きくないと
エンジン回転が下がりすぎてしまう。
このシフトダウンの力は、主に駆動系にかかる相対的な負荷と
コンプレッションスプリングによるものだ。
ウェイトローラーによる遠心力の減少ではない。
駆動系にかかる相対的な負荷とは
走行による抵抗と、エンジン自体からのパワーである。
つまり、変速のスケジュールは
ウェイトローラーのによって生み出される遠心力と
エンジンパワー・走行抵抗・コンプレッションスプリングのバランスなのだ。
FK-9で俗に言うエンジンがたれた状態というのは
エンジンそのもののパワーダウンで感じるのではない。
コンプレッションスプリングの熱だれと
エンジンパワーダウンによる負荷の減少によって
シフトアップスケジュールが早まってしまい加速しないのである。
この長時間走行時のパワーダウンを見越して
変速スケジュールを決定しなければならない。
つまり、ベストラップが狙えるセッティングでは
一発のタイムは速いが、その後はどんどん遅くなっていく。
ベストラップは若干遅くともトータルで速いところを探さなければならないのである。
午後になり、ドライバーのブン仲井と尊師杉山が到着する。
まずは、ナラシをかねてブン仲井に走行してもらう。
回転数は7700〜7800rpm
確かに狙っていた回転数である。
しかし、タイムはなかなかあがらない。
路面の状態もあまり良くなく、こちらのタイアもきついようなのだ。
あたりが若干暗くなりかけた頃、やっとペースがあがる。
他のチームもかなり三味線状態なのだが
これなら8時間後もそこそこのポジションにいるだろう。
そう考えようとしていた。
そして、いつもなら夜中まで作業が続くのだがこの日は早く撤収。
走る時間がないのなら、あとはすることがないのである。
ブン仲井も尊師杉山もFK-9のことを熟知しており
作業がかなり進むのだ。
しかし、自分としてはタンク・電装系の時間のことが頭にあり
こんなに早く進んでいる作業に違和感を感じる。
この日は、村田の実家、TeamKUMI本部に泊まることにする。
ブン仲井の家族4人と尊師杉山、それとウチの2人が押し掛ける。
いつもは一人の実家は大変な騒ぎになってしまった。
迎えた決勝当日。
台風は過ぎ去り、秋晴れの良い天気である。
今年もドライバーにカリスマ溶接師の春名が加わる。
つくづく思うのだが、このチームは速さがあるだけではなく
ドライバーのスタイルの違いはあるが確実に仕事をこなしている。
安心していられるのは、私にとって大変重要である。
例によって、運営側にも顔を出しているので
放って置いても事が進んでいるのはありがたい。
チーム員も積極的に動いてくれる。
特にチーム監督のKUMIには頭が下がる。
いつものように、完璧なホスピタリティ。
暖房もちろん完備。恒例のカレー。タイム確認のモニタ。
あまりに居心地が良いと、ピットレーンに行かないでしまうが・・・
今回も2回のフリー走行がタイムトライアルである。
ここで、あまりタイムが出ず悩む。
もちろん、一発タイムではなく、回転重視にしてあるのだが
それにしても遅いのだ。
5番手のタイムであるがトップから2秒ほど遅れの4秒台。
エンジン回転数は、ほぼ狙ったところを回っている。
さあ、どうするか・・・・
ウェイトローラーを若干重くすればタイムはあがるだろう。
しかし、後半のタレが怖い。
ラップタイム差を考えると、こちらが5秒台の時に、他車は7秒台になるか?
確信がないセット変更はやめて、最初の判断にかけることにした。
スタートドライバーはブン仲井に任せる。
久々のレース参加だが、昨日の危険判断など素晴らしかったからだ。
全体のスケジュールでは一応、10スティントを考えるが、
場合によっては9スティントにチャレンジしてみるつもりで
ギリギリのピットインを狙う予定を組む。
レーススタート。やはり全く加速しない。
5番手から6番手あたりでタイムも伸びず苦戦する。
6秒台から5秒台での走行が続く。
トップは#8「王子様」で、3秒台の順調なラップ。
つまり、このマシンにまともに追いつくためには
こちらが5秒台で落ち込みがないとしても、7秒台に落ちてもらう必要がある。
かなり怪しい状態になってしまった。
52分走らせたブン仲井をピットインさせ、初めての9リッター給油。
予定通りのピットロスで尊師杉山を7番手で送り出す。
しかし、重量の関係もあるのかベテランの彼でもタイムがあがらない。
不調の#25 元祖GXの「Furyo Oyaji」をかわして6番手にあがるも
根本は解決していない。
給油無しで私が乗り込む。
降りてきた尊師杉山は「大アンダーだ」と言う。
正直言って私はアンダーは苦手なのだ。
目の前に、#7 正統進化GXの「ファイト一発ホンダ」がいるが追いつけない。
しかし、このままのタイムで納得がいくわけがない。
これからのレースで、他のドライバーのモチベーションも下がる。
そう思い、死ぬ気でタイムを刻み始め、やっとの思いで4秒台に入れる。
その時、気が弛んだのだと思う。
激しい頭痛がしてきた。
実は、木曜日から風邪気味で、鼻と喉をやられていた。
熱はほとんど無く、頭痛もないので走り出したのだが
ここにきて痛みがおそってきたのだ。
ピットを見るが、まだ交代の時間ではないようだ。
タイム掲示を見ると5秒台中盤に戻ってしまっている。
集中し直して何度か4秒台に入れるがかなりつらい。
やっとピットインのサインが出る。
次のドライバー、カリスマ溶接師春名に伝える。
「大アンダーだから振り回せ」
これに応えて春名は4秒台連発。
フルタンクの状態で、である。
私の方は、頭痛と首の痛みで立つのがやっとの状態。
しかしそこは、薬屋と看護婦の的確なアドバイスで元気になる。
レース中盤、トップは相変わらず#8 「王子様」。
2位に3ラップの差を付けている。
2番手争いは#87 「Sakunami Racing」 と#7 「ファイト一発ホンダ」。
ハイペースの#87に対して、そこそこのスピードと燃費の差の#7。
お互いのピットインの間に順位を変動させている。
これに#6「マケラーレン・セメルデス」がハイペースで追いすがる。
我々#93は、その間の4番手でペースを守るだけであった。
ドライバーの心理として、45分〜50分のころは大変につらい。
サインボードが出て「PIT」という文字が出ていることを
毎回最終コーナーで祈るのである。
少し春名にいたずらをしてやりたくなり、45分時点でサインボードを出す。
「UP UP」
がっくりした春名。
6コーナーで「チェンジ?」手振りをする。
構わず「UP UP」のサイン。
本当は、ここでペースをあげたかったのも事実なのだ。
後ろから#6が近付いてきていたのだ。
再びブン仲井のドライブ。
#6 とかなり接近する。
現在4番手を走行中。
見ていても痛々しいくらいアンダーで曲がらない。
ブン仲井にも疲れが出ているのかタイムも落ちてしまっている。
「PIT」のサインを出すと、ステアリングを叩いて喜んでいた。
尊師杉山に変わってからもタイムは変わらない。
大アンダーは路面が冷えてくるほど酷くなっていった。
2度目のドライブの準備を始めたが、頭痛が心配だ。
しかし、この私のスティントがチームにとって最大のヤマ場だったのだ。
走り出して驚いたのだが、エンジンの調子は非常によい。
大アンダーはどうやっても消えない。
無理矢理振り回してタイムを稼いでいる。
ライトオンの時間ではないが、一旦ライトを点灯させてみる。
振動で点かなくなっている可能性があるからだ。
ピットからOKサインが出たので安心する。
ふと気が付くと、5番手だったはずの「93」が4番手に表示されている。
2番手を走行していた#87にトラブルが出たようなのだ。
そして、ピットからは「UP UP」のサイン。
最初は、春名の仕返しかと思ったのだがどうも様子が違う。
3番手走行の#6が同一周回で前にいるようなのだ。
マシンにムチを入れ、それをかわしてメインストレートへ。
チーム員がバンザイをしている。
が、すぐにピットインのタイミングになってしまった。
各チームがライトオンしはじめる。
オフィシャルからライトオンボードが出るあたりには全車が点灯していた。
今年のウチのマシンは全部で17個のライトが付いている。
前方にLEDヘッドライト2個とビーム1個
後方にポジション2個とテールライト1個
前後のウィンカーで4個
フロントカウル内部1個、サイドボックスに各1個
そして、ホイールに各1個
ウィンカーとホーンはバッテリーから直接来ており
その他はホイール以外はジェネレーターから。
これらの配線とスイッチングは大変な労力である。
そして、ホーンも含めると電装は大がかりだ。
しかし、今年の各マシンを見てみると
各チームがいろいろと趣向を凝らしているのだ。
さすがに、ホーンとウィンカーはややこしいのかウチのマシンだけだが
各チームがライトオン状態で識別可能だ。
これを見て思った。
「ああ、8耐のナイトセッションは大切なんだ」と。
8時間のレースなんて、日中に終わらせることは可能だ。
午前中早くにスタートすればいいだけの話である。
やる気になれば、グリッドは抽選で良い。
9時にスタートして17時まででよいのだから。
これでおもしろいだろうか?
私はナイトセッションは絶対になくしたくないと言ってきた。
照明をつければ、レースは可能だが
ライトだけは必ず装備させている。
安全性ももちろんなのだが、
そこに新しい楽しみを見つけて欲しかったのだ。
たかがカートなのに、装備はGTやF1並になってきたら
ワクワクするではないか?
これが伝わってもらえた、と実感する。
スピードとは直接関係はないかも知れない。
しかし、単独のドライバーの戦いではなく
チームとしてプロフェッショナルの真似事を極限までやる。
ここがおもしろいのではないか?
ル・マンには出られないけれど、GTには出られないけれど
完全に同じ状態が再現されている。
そして、今年はゴールの瞬間、コンボイができあがった。
各チームの順位が、数周差という大きなものになったから
できあがったのだ。
初めて、メインストレートでのピットの歓声を聞いた。
バンザイをしているチームもある。
オフィシャルが機転をきかせてコース員に指示が出た。
コースマーシャルが各コーナーでフラッグを振り回してくれている。
しかも、通り過ぎた後に、別のコーナーに移動してまで。
各ポストにお礼のホーンを鳴らした。
結果は、3位表彰台。
ドライバーだけが表彰台に乗っているが
チームの協力がないとマシンは走らない。
一人では絶対に参加できないのが8耐なのだ。
この大会の参加申込用紙に書かれた名前。
ドライバーとピットクルーだけであるが
それを支えている影の人たちも必ず存在している。
全ての人たちが、全てのマシンの完走を願っている。
この思いがあるうちは、私はそれを守りたい。
もっとたくさんの人にこの体験をしてもらいたい。
つづく・・・
というわけで、いつものようにデータ解説をします。
今年、耐久レース戦略用のエクセルデータを公開しました。
これが次々にリファインされて公開時のVer.4から
レース時にはVer.10になっていました。
(今、「なんだよー」って思った方・・・それぐらいは自分で苦労してください(^^;)
今年のデータは入れていませんが、これがそうです。
自己解凍のexeファイルですので、マウスの右クリックでどこかに保存して
ダブルクリックすると解凍されます。
他のコースで使う場合は、かなり変更が必要となります。
また、通常のピット作業タイミングではない場合
最後の燃料計算が狂うかも知れません。
次に、完全順位(相対位置)グラフです。
今年の基準は66.5秒となっています。
そして・・・
本邦初公開!!
これが Team KUMI & 畳のほりごめRacing のデータだ
最近のカートでは当たり前になっているが
タコメーターにセンサーが付いており、ラップタイムと回転数がメモリーできる。
それをグラフ化した物である。
SUGO国際カートコースには
コース上に3つのマグネットが埋設されている。
これをマシン側のセンサーで感知して、
セクタータイムとラップタイムを記録できる。
同時に、そのラップの最高回転数も記録可能なのだ。
参考までに、昨年のデータを併記している。
上のグラフは、各セッションのセクタータイムの分布である。
セクター1は14コーナー先から2コーナー先までの区間。
セクター2はそこから9コーナー先まで。
セクター3は14コーナーまで、となっている。
下のグラフは、1周のラップタイムと最高回転数の分布。
どちらもセッション同一のセッションのデータである。
2003年の前日は、前年のレポート通りであるが、
古いタイアのままで52Tと50Tの比較をしている。
6セッションの走行をしているが、52.50.50.52.52.50となっており
最後のセッションは夜になっていてタイムが落ちている。
これを見て判るとおり、52Tで最高速が伸びるわけではない。
ましてや、55Tなんぞでは遅くなると予想される。
次の3つのセッションは2003年の決勝100Lapである。
3つあるのは、ドライバーチェンジをしているからだ。
ストレート区間のタイムが若干犠牲になり、
インフィールドが速くなっているのは、タイアが変わったせいである。
さて、問題は2004年のデータである。
私は、このデータを前日の走行終了後に見ている。
しかし、このデータから正しい情報を引き出せなかった。
見落としがたくさんあったのである。
今回念頭においたのは、回転低下の防止であった。
そのために、いつもよりも100rpm位上を狙っていた。
もちろん、一発のタイムは出なくとも。。。で、ある。
しかし、今になって見てみると、この狙いは間違った結果をもたらしている。
前日の4セッション目からタイムがあがるが
これは、タイア交換によってインフィールドで稼いでいる。
しかし、データをよく見ると、3〜7セッションで
回転数はぴたりと7800rpmに張り付いている。
つまり、エンジンの上限回転数だった可能性があるのだ。
ということは、もっとウェイトローラーの重量を増やして
下の回転数から立ち上がったとしても
回りきることが可能だったのではないか?
案の定、決勝でも7800rpmを殆ど越えていない。
タイムも出ず、回転だけが上がっていたわけである。
これらのデータを読みとるためには
常日頃の走行が必要だと思う。
正確に言えば、
常日頃の走行とセッティング勘が必要、ということだ。
いつもデータを見ていれば、このことに気が付き
1つのセッションだけでも、回転域を下げてみただろう。
(実際には、回転域の予想低下と現実との差を見る)
また、ベストラップセッティングも試してみただろう。
まだまだ、やることはたくさんあったのである。
一旦終了 2004/11/05