第3回目・・・・。

2000年(昨年)8耐のグリッド。
このあとけんさわ氏は一時トップを走るが
マシントラブルに見舞われる
正直言って、私は耐久レースが怖い。

今までスプリントでは何度も優勝しているが、
耐久レースでは、たった2回しか優勝していないのだ。

それは、同じチームのメンバーにも申し訳ないことになる。
そして、ウチのチーム監督から「今回はきちんと整備してね。」
とダメ出しを喰らう。

そう。。。いつもレース直前しか触っていないマシン。
前回のレース(スプリント)前にエンジンのフルオーバーホールを敢行。
しかし、テストとなったレースでは雨が降ったためにデータが取れない。
エンジンが不調なのかセッティングが不味いのか
気候のせいなのか、路面のせいなのか、人のせいなのか。。。
全く判らなくなっていたのである。

データの蓄積というのは、何もコースとの相性だけではない。
全く初めて乗ったマシンが100%の整備されているのかどうか。
いつもの感覚がなければ、「この時のマシンでこのコース」というデータしか無い。
セッティングが合っているのかどうか?これはある程度「いつもの感覚」というのが優先される。
それが無いのである。

そのために、前の週にセッティング出しを行った。この時のタイムは1'03台。
これが速いのか遅いのか、対照となるマシンがないので判らない。
今までのベストラップは1秒台。しかし、湿度が高い状態でどうなのか?
そして、某社の新型プーリーも試してみる。
わからない・・・・
唯一、燃費の計算だけは出来たのが救いである。

決勝はこの週末土曜日だ。木曜日からテストするが、これも湿度が高くてわからない。
タイムは依然として3秒台。誰か一緒に走ってくれ!!
そして、最後のセッティングとなった金曜日はあいにくの雨。
まだわからない。。。。。
ただ、ここまでで2つほど判明したことがあった。
ベストラップを狙ったセッティングでは時間と共にエンジンの出力低下で
かなりのペースダウンになってしまうこと。
だから、このタレたエンジン出力に照準を合わせてセッティングしないと
タイムがどんどん落ちるのである。
もう一つは雨のセッションでの無限PK50改のパフォーマンスが良いこと。
もしかしたら、本人達は気が付いていないのかも知れないが
低速での吹けあがり重視になっているみたいなのだ。


悩みは多いがもう既に対策はない。明日は尊師とブンに期待しよう。
尊師杉山はフォーミュランド時代からの仲間。今までFK-9で3度チャンピオンを獲得している。
そしてブン仲井は、フォーミュランド時代のメカニック。
気心が知れていると言うよりも信頼できるメンバーが居るのは心強い。

土曜日。
決勝の朝は雨は上がっているもののウェット路面である。
いつコンディションが変わってもおかしくない状況である。
8耐ではTTが2度行われる。
久しぶりのカート走行になるブン仲井にステアリングを託す。
3周した時点でいきなりのトップタイム。
そこで彼をピットに呼び入れる。タイア交換も見据えてのことである。
ピットに入ってきた彼に「トップタイムだから様子見よう」と言うと
「うそでしょ!?」
彼は、発信器の番号をゼッケンと間違えていたらしく
電光掲示板を見ながら
「何秒なんだろう?あ、ピットインサインだ。遅いんだろうな」
と考えていたらしい。
結局そのタイムは破られることなく1回目のセッションを終了する。

2回目のセッションはコンディションが変わっていった。
まずはブン仲井を走らせ、尊師杉山と私はタイム更新のためだけに走るつもりでいた。
何度かトップが入れ替わるが尊師のアタックでトップに返り咲く。
ここで、残り5分で私がコースインする。まだ路面は濡れているのだが、確かにマシンは速い。
どんどん他のマシンに追いついていき全開走行に入った1周目。
前のマシンに3コーナーで追いついてしまい処理に困ったまま4コーナーへ入る。
ここで前のマシンが大きく減速!!
たまらずイン側に避けたがタイアが接触して私のマシンは宙を飛ぶ。
彼は大丈夫だろうか?などと考えながら
振り返るのが怖い・・・と思った瞬間「大丈夫ですか?」と声を掛けられた。
よかった。
次の瞬間、マシンのことが心配になる。
コースに復帰することを一旦は考えるが、身体が嫌がる。
が、マシンの調子を見るためにとにかく走ってみることにする。
メインストレートに戻るとチェッカーは振られていない。ピットの連中はGO!GO!のサインを出している。
とにかくアタックを開始するが、自分としてはマシンの調子を見ているつもりである。
実は路面状況が変わってきていて順位が下がってきていたのである。
コントロールライン直前で4番目に表示されていた「93」が3番目に上がる。
なんとも複雑な気持ちでピットに戻ってきたら今さらになって「身体大丈夫?」と言われてしまった。
さっきのGO!GO!サインはなんだよ(笑)


決勝に向けて、チームのミーティングを行うが
マシンの調子はかなり良さそうである。
そして、そのセッティングは熱ダレしにくいものにしてあるのだからかなり気持ちが楽になる。

スタート時点ではコースはラインドライ状態。
このまま乾いていってくれればかなり楽な展開になるだろう。
ラム吸気もデータ取りが済んでおり、今までの悩みが一気に確信へと変わる。

スタートドライバーはブン仲井。
実は内緒にしていたのだが、
彼のパフォーマンスがこれほどだとは予想していなかった。
安心してスタートを任せることが出来る。
スタートで順位を1つ上げトップ争いとなる。
が、3周目でトップに立つとかなり良いペースで飛ばし始める。
ペースが落ちる場面もあったが2位がミスする間に間隔は広がり
展開はかなり楽になりそうだ。

タンクの大きなマシンはピットインで給油をせずにコースに復帰して行くが
空になった時点で給油量は同じになるはずなのだ。だから焦らずに予定通りギリギリでピットインさせる。
燃費もかなり良い方向に行っているようだ。ロスタイム90秒で尊師杉山を送り出すことに成功する。

スタート直後から濃い霧が立ちこめ、早々にライトオンされる。

しかし、ドラマはまだ始まったばかりだったのである。
第2ドライバーの尊師杉山は次の周にトップに返り咲く。
その10分後に、立ちこめていた霧がついに雨に変わるのだった。

他のマシンがタイアチェンジを行っているのを尻目に彼はかなりのペースで走行。
たまらずピットインしてタイアチェンジを行う。序盤のマージンを活かしてトップでコースに戻る。
そして、若干ペースが落ちてきた尊師杉山にピットインサインを早めに出す。
雨カバーを付けていないのだ。

第3ドライバーの帝王堀籠にドライバーチェンジ。
雨カバーを付けるのと同時にタイアのエア圧を上げる。
そして、キャブ調整をするのだがこれが裏目に出る。
コースインしてすぐにエンジンの異変に気が付く。
低速のパワーが全くないのである。薄いのか?濃いのか?
一か八か絞ってみるがこれが大失敗。再びピットにはいるがまだ薄いようだ。
恒例の帝王片手運転が始まる。
当然ラップタイムは安定せず3位まで落ちてしまう。

再びブン仲井のドライブ。
思いっきりキャブセットをリッチにして送り出す。
これが功を奏してマシンは一気に3秒もラップタイムが上がる。
しかし、上位の2台にはまだ届かないラップなのである。
霧が立ちこめ早々とライトオンのサインが出される。かなり微妙なコンディションになってきた。

トップに立っているのはペースが安定していたTECH21レーシング。
晴れの状態ではかなり後方にいたはずなのに現在はトップなのである。
ここで気が付いた。
実は彼らのマシンのエンジン音を聞いていたときにかなり高回転で
無理な変速をしているな、と思っていたのである。
が、この雨とエンジンの状態ではむしろ低速でパワーバンドをキープさせた方が
立ち上がりなどでかなり有利になるのだ。
これは、天候が回復しない限り我々に勝ち目は無さそうである。

尊師杉山の2回目のドライブでは、彼もLoが薄いと訴えている。
(実際にはウェイトローラーのセッティングがずれてしまっているため)
つまり、高速の伸びはあるのだが低速の立ち上がりが酷いのである。
何度かピットインをさせるが、バッテリーが大分弱ってきている。
ライトの光量を確保すると充電容量を超えてしまうのである。
しかも、低速走行をしていることからかなり厳しくなってきている。
ついに、2度目のキャブセットの際にエンジン始動が出来なくなる。
すぐさまバッテリーの交換にはいるが焦ったためプラスとマイナスを逆に接続。
もちろん、スターターは回らない。
単純なミスほど気が付くのが遅れ8分ほどのロスを喫してしまう。
これで順位は6位まで落ちてしまった。
帝王堀籠のスティントでチームはフロントレインタイアのみの交換を決行。
これが堀籠好みのオーバーセッティングとなりペースが上がる。
しかし、他のマシンのペースに追いつくだけで
順位を入れ替えるところまでは行かない。
ここから先はエンジンを騙しながらペースを維持するだけになる。


最後のスティント、私がシートに収まりエンジンを掛ける。
前とは6周、後ろとは3周ほどの差が付いているので
マシンをゴールに大事に運ぶのが仕事である。雨は土砂降り状態になってきた。
ライトによってコースが非常に見えにくい状態で
各チームも残り僅かと言うところでコースアウトすらしている。
ウチのチームはどうだったんだろう?
走りながらいろいろなことを考える。
ブン仲井も尊師杉山もドライバーとしてもメカニックとしても信頼できる。
それ以上に、チーム監督の私の妻も我々以上に先回りして準備してくれている。
ガソリンの準備やら食事の心配まで。
レースというのはドライバーだけが注目されがちだが
それはチームがあってこそなのである。
もちろん、派閥になるようなチームを組織するつもりはない。
しかし、彼ら彼女たちはプロフェッショナルである。
そして、どのチームも一丸となって8耐を戦ってくれているのだ。

私にとっては、自分のチームの存在も嬉しいが
その1つ1つのチームが、この8耐で本気になって団結している・・・
そして、そのチーム同士が助け合っている・・・
順位がどうであろうと参加した全ての人が楽しんでくれる・・・
これが最大の喜びなのかもしれない。

レースという一つの「大人の遊び」を本気で楽しんでくれて
チームということをその瞬間だけでも実感できれば
私は満足だ。
その一人一人の笑顔、泣き顔、悔しい顔を見られただけで満足だ。
大人になろうとも、この感動は分かち合えるのだから。

いや。。。決して負け惜しみじゃないぞ。














くっそぉ・・・来年こそは・・・